5/13、文部科学省は各都道府県や指定都市の教育委員会等に2021年度の高校入試に際しての配慮事項に関する通知を出しました。
もちろん、背景にあるのは新型コロナウイルスによる休校です。
今回はこの通知が入試に与える影響を考えてみたいと思います。
文部科学省が出した通知の概要
文部科学省が2020年5月13日出した通知のタイトルは「中学校等の臨時休業の実施等を踏まえた令和3年度高等学校入学者選抜等における配慮事項について(通知)」です。
端的には、今回の新型コロナウイルスに関連した休校措置に配慮した入試を行ってくださいという通知になります。
具体的にはどんな内容なのでしょうか?
以下に通知のリンクを張っておきます。
https://www.mext.go.jp/content/20200514-mxt_kouhou01-000004520_2.pdf
部活動や行事、検定試験の中止に伴う配慮
1つ目は、今回のコロナウイルスによって中止や縮小になった部活動の大会や検定試験、文化行事などの影響への配慮です。
具体的には推薦入試などで本来評価されるべき部活動の成績や個人記録がないことをもって不利にならないように配慮してほしいという要請です。
調査書記載の出席日数や学習評価内容が少ないことへの配慮
2つ目は、休校措置によって単純に出席日数が少なかったり学習評価内容に記載する項目が少なかったりすることへの配慮です。
中3が始まるにあたってクラス替えを行い、新クラスでスタートしているところが多いと思いますが、休校が長引くと担任の先生もその生徒の長所などがなかなか見えていない状況だと思います。
それにより、調査書の特記事項があまり具体的に書けないといったことも出てくるかもしれません。
ここで言っているのは、そのような調査書の内容の薄さを不利に扱わないでほしいということです。
高校入試における試験範囲等への配慮
3つ目は、2021年度入試において試験範囲等で配慮をして休校が不利に働かないようにしてほしいという趣旨です。
具体例として以下のような記載がありました。
中学校第3学年からの出題は、地域における中学校等の学習状況を踏まえ、
適切な範囲や内容となるよう設定する。地域における中学校等の学習状況を踏まえ、問題を選択できる出題方法と
する。臨時休業が長期化している都道府県の中学校等に在籍する入学志願者が、
中学校等の臨時休業の実施等を踏まえた令和3年度高等学校入学者選抜等における配慮事項について(通知)より
臨時休業が長期化しなかった都道府県の高等学校入学者選抜等を受検する
場合、面接や作文等の学力検査以外の方法も用いて選考を行う。
1つ目の項目は試験範囲を休校の状況に合わせて、調整せよというものです。
地域の学校ごとに対応が少しずつ異なっているので、全員が納得のいく形に試験範囲を調整するのは非常に難しいと思われます。
進路指導を丁寧に行う
4つめは、進路指導面談において、志望する高校が2021年度入試でどのような対応をとるのかを生徒・保護者にきちんと伝えてほしいという趣旨です。
仮にこの文科省の通知が機能して、各自治体が様々な対応をしてきたならば、保護者や受験者本人へ必要な情報を漏れなく分かりやすく伝えるというのが非常に重要になります。
そのためには、方針の早期決定と周知が必要です。特に私立学校の対応は各校単位で動くはずなので、情報収集を積極的に行う必要があります。
小学校入試や中学校入試も同様
最後に、付記として小学校や中学校の入試でも同様の配慮をしてほしいとの記述があります。
ここまででわかることは、文科省は来年2月の入試は普通にやるつもりでいるだろうということです。
試験範囲を狭めるような提案をするということは、学習範囲が未消化でも入試をやるということを意味します。
つまり、入試日程を大きく動かすことは考えていないと読み取れるのです。
年末くらいに国民の非難で再調整するかもしれませんが…(笑)
そこからでは入試問題の再作成はできませんので、大混乱になります。受験生は一定レベルの覚悟が必要です。
この通知を踏まえてどんな入試になるか?
この通知をきちんと踏まえるとどのような入試になるのでしょうか?
少し考えてみたいと思います。
推薦入試
部活動を中心にした推薦入試は合格者を選ぶのが大変難しくなります。
部活動の大会記録や個人成績が不十分なまま合格者を選ぶのは至難の業です。高校側は合格者を選抜するための何らかの工夫をしてくるはずです。
たとえば、面接試験だけでなく、実技試験を行うとか、中学の部活の顧問の先生宛に訪問をして、実際の部活動の時の様子をヒアリングするとかです。
高校側としては入学するに足るだけの力があることを客観的に証明する(しかも他の受験生と比較する)資料が欲しいのですから、文科省の言う配慮というのは本人への精緻なヒアリングや実技試験による実力の確認ということになると思います。
実際に実技試験を今から入れることができるかと言えば、なかなか難しいところもあるでしょう。中学から提出された書類だけを頼っても、他の受験生との横の比較ができなければ合否の判定ができません。他の受験生との違いを客観的に見られるような書類が新たに用意されるかもしれません。
学力検査に基づく選抜(いわゆる一般入試)
文科省の通知では試験範囲を狭めたり、選択問題によって差をつけるなどの配慮をしてほしいという内容が記載されています。論点は以下の2点です。
試験範囲を狭められるか
不公平になってもよければ思い切って狭めることは可能です。ところが、地元の公立高校だけでなくそのエリアで多くの人が併願をしていく私立高校、特に大学附属高校が同じ流れに乗れるかというとなかなか難しいかもしれません。
試験範囲を不用意に狭めると、その分野を得意としていた生徒を不利にしてしまう可能性があるため、本来は簡単に試験範囲は変更できないはずです。
文部科学省からの要請であるという前提で思い切った対応をするのであれば、数学で2次関数を出さないとか、英語で関係代名詞を出さないといった対応になると思います。
そんなことをしたらきちんと実力差が現れる入試問題を準備できるかといった根本的な問題になってくるように思われます。高校側の作問能力が問われるかもしれません。
選択問題は採用できるか
これも採用しようと思えばできますが、合否に与える影響が非常に大きく慎重になる先生も多いと思います。
一般的に選択問題を導入すると選択内容ごとの母集団にグループが分かれます。
具体的には、選択問題Aを選んだグループと選択問題Bを選んだグループに分かれてその中で得点の比較をすることになります。
センター試験の選択科目は得点配慮をしないケースがほとんどですが、毎年各科目の平均点に差があると問題になります。
高校入試でも選択問題を導入すれば、センター試験同様に、選択問題Aを選んだ方が簡単だったとか、Bを選んだ受験生は不利だったといった議論が始まります。
そのような問題にならないよう、どちらを選んでも正答率がおなじになるような精緻な選択問題の作成が求められるということです。
試験範囲縮小も、選択問題導入も端的に入試問題のレベルは下がる可能性が高いです。本来入試問題は複数の単元の融合によって少ない問題数でも実力差が出るように作られています。
範囲が狭まれば組み合わせられる単元も減りますので、難易度も下がってくるでしょう。
最も重要なのは対応方針の早期発表
このように対応自体は割り切ってやってしまえばできるものばかりだと思います。
ただし、これをやる際に重要なのは方法の周知徹底です。
推薦入試の選抜方法の変更や学力検査の出題範囲の変更を早い段階で告知をして、受験生に十分な準備時間を与えることが重要です。
事前にきちんと情報の周知が図られていれば、受験生は自分の努力の範囲で手が届くかどうか見極めていくはずです。
それが周知されず、受験生に前年並みの準備をさせてから直前期に方針変更などを発表するのは受験生にとって本当に厳しいと思います。
少しでも早いタイミングで入試制度や範囲の変更を公表すべきです。
入試にどんな配慮をしようとも、今年の受験生は3月~5月の休校によって大きなハンデを背負っている事実に変化はありません。
また、9月以降に再度緊急事態宣言が出るような事態になれば入試そのものを予定通り実施できるとも限りません。
現段階の情報をもとにベストを尽くすべきですが、これですべてが決まったと考えない方がよいでしょう。
「学習はできるだけ進めておく」、「情報収集を積極的にする」、「状況に応じて柔軟に対応する」という3軸が必要です。
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