現代文の読解問題で何かとやり玉にあがるのが「小説の読解」。
「そもそも入試に必要な科目なのか」とか「『登場人物の心情を書け』とか言われても、分かるわけないだろ~!」と理系の人などには良く言われるのですが、実は心情読解はもう少し論理的だったりします。
長年、受験国語の指導をしてきた経験もあり、今回はこのあたりを少し深掘りしていきたいと思います。
小説は何のために書かれるのか
最初に、小説はなぜこの世に存在しているのか、ということを考えてみましょう。
作者が原稿用紙やパソコンを前に悶絶しながら、言葉を選びに選んで、何度も書き直して小説は世に送り出されます。
そこまでのエネルギーを割いて、何してるんでしょう……。
小説家の中には、生きることや世の中に対する自分なりの考えや主張があって、それをどのような形で伝えるか考えているところがあります。
小説家は自分の問題意識を世の中に投げかけているわけです。
評論家なら、評論文でそれを書けばよいのですが、直接的で手っ取り早い反面、いかにも説教臭くなって面白くない、もっというと読者に自分事としてとらえてもらえないといった短所があります。
その点、小説は時と場所、登場人物を設定し、そこに何らかの出来事が起こり、それに登場人物が向き合うという中で、だんだんと作者の伝えようとした問題意識が立ち現れるところがあります。読者は感情移入しやすいうえに、自分がこの立場だったらどう考えるだろうという思考が働くため、より深く問題意識を読者に届けることができます。
そんなわけで、伝えたい中心をよりリアリティをもって伝えるために、場面や時代を選び、登場人物を設定し、ストーリーを考えるという創作活動をやっているのです。
分かりやすい例を挙げると、
太宰治の「走れメロス」のテーマが、仮に友情や人を信じることの尊さだったとして、それを「友達を信じよう!」「友情を大切にしよう!」と言っても空々しくなってしまうわけです。
それを人間臭く、
・王様は過去に周りに人に裏切られた経験から人間を信じられなくなった、
・メロスも刑場に間に合わないと思ったときに一瞬友を見捨ててしまおうという気持ちを持ってしまった、
・親友のセリヌンティウスも一瞬友を疑ってみた、
というような人間模様が描かれることで、人を信じることの意味や難しさが切実な問題として読者に伝わるということです。
小説は作者の心にある「思い」をストーリーを通して読者に伝える表現手法です。
ちなみに、小説に限らず、どんな表現媒体も「思い」や「主張」を伝えることは容易ではありません。国語の授業で読解力や表現力を扱うのは、この「思い」を伝えたり受け取ったりする技術を磨くために他なりません。
そのあたりは、以下の記事でも触れているので、ぜひご一読ください。
小説に書かれている言葉はすべて作者が選んだ言葉
小説の読解をどのように行うかを考える前に、小説の中の表現は、すべて作者によって仕組まれた内容であることを今一度理解しましょう。
ある場面で雨が降ったとしたら、それは作者がこの場面は雨を降らせる必要があると思ったからであって、偶然雨が降るなどということは小説ではありません。
道端に草が生えていたり、蝶々が飛んでいたりする場合も、その場面に草が生えていたり蝶々が飛んでいる必要があると作者が考えたからそう書かれている、ということです。
作者は自分の伝えたい内容を効果的に読者に伝えるために、最も効果的な場面・天気・登場人物・服装や発言、イベントをセットします。
また、それを効果的に伝えるために、どのような言葉をつなげてその内容を伝えるかも綿密に計算します。
それが、その小説家の文体なり、カラーなり、作風なりといった形で表れているということを知識として知っていることは、読解の作業に入る前にとても重要な情報なのです。
小学校ので習う物語のころから、なんとなく与えられた文章を受け身で読んでいると気づかないかもしれませんが、小説の一つ一つの言葉には作者の魂がこもっていることを理解しておきましょう。
小説読解のポイント
では、前提を理解したところで小説読解の要点を確認していきます。参考書や塾のテキストなどにも項目は必ず出ていると思います。その内容をきちんと確認しましょう。
① 場面設定
その小説の時代や場所、時間帯、季節、天候などの情報です。
何月何日の何時ごろであるという書き方は不自然なので、作者はそれとない表現で読者に情報を伝えてきます。
咲いている花(季節)、日の高さ(時刻)や太陽が作る影の長さ(季節・時刻)、登場人物の服装(登場人物の性格や心情)などに情報が織り込まれています。一つ一つの情報が何を読者に伝えようとしているかを意識してみましょう。
②出来事
その小説の中の主要なエピソードです。
例えば、「友だちを裏切ってしまって、心が痛む」といった出来事を通して、何を読者に伝えたいのかを考えます。
ただし、これは必ずしも作者の意図通りに読まれない可能性があります。入試問題では小説の一部を抜粋していることも多く、その抜粋部分だけではすべてが読み取れないケースがあるからです。
また、作者の感覚と、一般読者の感覚や持っている背景知識の量がずれていて、そこまでは読み取れないよ…というケースも実はよくあります…(汗)。
だから読み取れなくてよいということではなく、「世間一般の常識(共通認識)に合わせてこの内容を読み取るとここまではわかるよね…」という基準で入試問題は作られるということを知っておきましょう。
「心情なんてわからない」という話ではなく、常識的に考えると「どう読まれるべきか」という客観的な観点で理解しましょう。
③登場人物の心情
前項とかなりかぶるのですが、小説のゴールは心情把握ではありません。登場人物が何を感じたかを理解して、その作品における作者の主張や考え(主題)をくみ取ることがゴールです。
特に登場人物の心情は、風景描写や天候、咲いている花の色などにも反映されていることが多く、場面全体が登場人物を引き立たせる役割を担っていることが多いです。
そのような本文中にちりばめられたヒントを総動員して、作者が意図している登場人物の心情、そこから伝わってくる作者のメッセージを考えるようにしましょう。
④全体を通して伝えたいテーマ
①~③をすべて理解した先に、その作品が伝えたいテーマがあります。
小説は多くの場合、「人はどう生きるべきか」、「どうあるべきか」といった問題を扱うことが多いです。
そのような問題意識をもって文章を読むことができれば、出題者の答えさせたい内容というのがおのずと見えてくるようになります。
【発展】小説表現はどうあるべきかを考えてみる
ここまでで、小説読解のツボは抑えられているのですが、少し発展的に小説表現というのも考えてみましょう。
小説家は、小説を書く技術について持論を持っているケースが多いです。たとえば、「一流の小説家は心情を表す形容詞を極力使わずに読者に人物の心情を伝えらえるべきである」などと言われることがあります。
「悲しい」という気持ちを「悲しい」という言葉を使わずにどう伝えるかが小説表現の技術であるということです。
また、小説の場面設定に他の場面を投影させているケースなどもあります。
このように、小説の読み取りは表面的な理解にとどまらず、その奥にある作者の思いをくみ取ることになります。
試験では限られた時間のため、深追いする必要はありませんが、設問を解く際にはこのような背景があることを理解しておく必要があります。選択肢の見え方も違ってくるはずです。
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