最近あちこちで人出がどの程度減ったとか減らないとかという議論が盛り上がってきています。アプリなどで数値が取れることが大きいのでしょう。
果たして何割減が望ましいのか、皆さんだったらなんと説明しますか?
今回は外出自粛はどうあるべきかを取り上げます。
世の中は生きた教材です。あなたが総理大臣や地元の自治体の首長だったら、何根拠に地元の住民にどんな要請を出しますか?
どんな説明をしますか? 一緒に考えてみましょう。
4/17の安倍総理の呼びかけ
4月17日の安倍総理が国民への呼びかけを行いました。
「最低でも7割、極力8割、人との接触を減らしていただきたい」
気持ちはわかるけれども、国民一人一人にも生活があります。自分は7割減らすといったうちの7割の減るべき(自宅にいるべき)人か、3割の残るべき(仕事を継続すべき)人か。悩んでいる人も多いのかもしれません。
もちろん問答無用でみんな仕事をやめて自宅にいられれば良いのでしょうが、仕事柄それはできない人も多いと思います。
では、どうすれば事態を打開できるのでしょうか?
統計モデルの理解と説明
今回の最低でも7割、極力8割という話は、安倍総理が自分で考えたわけではありません。対策本部の方々からそういうデータを見せられて説明をしているのだと思います。
国民に「自分事」として理解してもらうには、この数字が何を意味しているかを正しく理解してもらわなければなりません。
このグラフは筑波大学の中村潤児教授の計算結果をグラフ化したものです。
資料全体は添付の通りです。
kは感染者が1日に他の人にウイルスを感染させる数値を表しています。標準モデルでk=0.25としているのは、感染者と治癒によって感染がなくなっていく人の差し引きをし、1日に0.25人にウイルスを感染させるという試算をしています。
この根拠については、中村教授の資料に詳細が記載されています。
これを見て、どのような未来が予想されているかを正しく読み取り、説明することが大事です。
グラフには太い線と細い線がありますが、太い線が感染係数0.25で感染がじ全が拡大した場合のシミュレーションです。
これを見てわかることは、接触を5割減らしても2週間で1.5倍程度に感染者は増えるということです。
6割でほぼ横ばい。つまり、今の状況がずっと続くということです。
7割接触を減らすと、感染者が4分の1になるのが6月の上旬。基準日が4月14日ですから、ほぼ2か月かかるということです。
8割減らせば、2か月後におよそ20分の1まで抑え込むことができます。
つまり、ここでの具体的な説明は以下のような感じになるべきなのです。
外での人の接触を減らすことが感染の終息につながります。
今の異常事態を終息させるには、国民皆さんの協力が必要です。
仮に8割の接触を減らせば、6月下旬にはある程度通常の生活が送れる状況まで感染を抑え込むことができるでしょう。
もし、7割までしか減らせなければ、9月ごろまでウイルスとの戦いが続くことになります。
様々な生活を送るための外出があるとは思いますが、8割減を実現するべく、皆様一人一人の協力をお願いします。
外出自粛割合とウイルス終息までの時間をセットで見せることで、事の重みやどの程度協力すべきかということが見えるようになりますね。
データをどう見せるかで相手への伝わり方は大きく変わってくるのです。
「8割減らせ」で8割減らせないのが世の中
説明はどんなにきれいにできても、実際に8割減らすなんてことはできるのでしょうか?
結論から言えば、ほぼ難しい状況です。
なんとなく「8割」と言われても、社会貢献意識の高い企業でさえ実現に相当な困難があるようです。
企業全体で8割を達成するには、ある部署は9割近く、ある部署は7割程度と部署の重要性や緊急度によって差が出るでしょうから、それを平均して8割にするには相当な困難がついて回るのです。
それでもそれを達成しようという企業は素晴らしいとしか言いようがないのですが、経営が困難な企業はそれを目指した結果、倒産してしまうという本末転倒になりかねないのです。
ではどうすればよいか。
それが経済対策ということになります。
今回の国民全員に一律10万円を配布するというのは、上記の感染防止の数値目標達成とどうリンクしているかというのが重要です。
「皆さんに血を流してもらって、なんとか8割の接触減を達成してもらいたい。その代わり、達成してくれたところにはこれだけの補償をします。」というような、お願いとそれに対する見返りの部分がうまくバランスが取れれば、一気に機能していくことになると思います。
財務省はバラマキに消極的で、10万円の配布も紆余曲折がありましたが、配布そのものが目的化してしまわないように注意するのが政治家の役割です。
前半は統計的な数値を遣った理系脳のお話、後半はそのデータに基づいて国のかじ取りをどう行っていくかという文系脳のお話。
これからの世の中は文系と理系の潮目に立てる目配りの利く人材が求められるのです。
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