こんにちは。まさおです!
ここ10日ほど、国文法の解説記事ばかりをやっていたので、教育政策に関する記事を取り上げて来ませんでした。
久しぶりに、今回は教育政策に関する記事をとりあげたいと思います。
8/18に日本学術会議が「大学入試における英語試験のあり方についての提言」を発表していますので、こちらを取り上げたいと思います。
この提言などの影響を受けて、共通テストにおける英語の取り扱いは、
1.共通テストは読む・聞くを中心に構成される(センター試験とほぼ同じ)
2.書く・話すは大学の個別試験で各大学の判断で確認をする
3.民間英語試験は共通テストでは取り扱わず、各大学が個別試験段階で必要に応じて活用
という展開に落ち着く可能性が高くなったといえそうです。
日本学術会議の提言とは?
日本学術会議は、総理大臣が所轄する国立アカデミーに当たる機関です。ここが、現在、文部科学省を中心に議論されている共通テストの英語試験のあり方について、提言を出しました。
2024年度を目指すこの試験のあり方は今後の日本の言語教育・外国語教育に大きな影響を与えるため、提言を公表することにしたとのことです。
実際の提言は以下からダウンロードできます。
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t292-6.pdf
ここでは大きく、以下の3つの提言が出されています。
1.「書く」、「話す」能力の計測は大学入学共通テストの枠組みに含めず、各大学が
必要に応じてそれぞれのやり方で実施する
2.民間試験の活用は各大学の判断に委ねる
3.「大学入試のあり方に関する検討会議」における検討についての具体的な提案
①高校・大学の英語教育にかかわる当事者の意見を反映させて検討を行う
②センター試験の評価を行い、それを踏まえて共通テストの英語試験の継続実施を
検討する
内容は、これまでの文部科学省の政策を一刀両断するような内容となっています。今後の議論もこの提言の影響を一定レベル受けると思いますので、その背景とともに内容を確認してみましょう。
「書く」「話す」は共通テストの枠組みに入れるべきではない
最初は「書く」と「話す」の試験についてです。
結論は共通テストで扱うのは不適切なので、各大学の個別試験で扱うことが望ましいという提言になっています。
理由は主に以下の通りです。
そもそも4技能を分けて学習すること自体が難しい
学術会議の指摘では、そもそも4技能の学習をする前提として、母語ではない外国語の学習は初期段階で、明示的な文法や語彙の知識の習得により基本的な言語能力をまず身につける必要があるとしています。
基本的な言語能力がないままに4技能の学習を進めても、いたずらに学習内容が分散するばかりで、学習効率が低下してしまうリスクを含んでいます。
また、言語学習の特徴として、受容の力(読む・聞く)と産出の力(書く・話す)は、受容の力の方が強く、受容の力を超えて産出の力を身につけることは不可能です。読めたり聞けたりする範囲を超えて書けたり話したりすることはできないということです。
この「読む力・聞く力」>「書く力・話す力」の関係を無視して、4技能を均等に伸ばそうとすることは考え方自体に無理があり、産出の力を中途半端に引き上げようとした結果、受容の力が現状以上に低くなる可能性があるとしています。
受容の力と産出の力の関係を正しく理解した上で、前後関係の明確な指導計画を立てる必要があるという趣旨だと思います。
実は、指導要領では4技能に「やりとり」という項目があり、「5項目を一体的に指導する」となっているので、指導要領の問題ではなく共通テストの計測姿勢に問題があるという指摘と考えるとよいでしょう。
書く・話すを大規模な試験で計測するのは難しい
書く・話す力は、大規模な入試において公平性を担保することが難しく、これをやるにはそれなりのコストをかける必要があるだろうという指摘があります。
記述問題の時にも出ましたが、例えば、英作文の採点をとっても、模範解答等採点規準書のようなものだけでは、正確な採点は困難で、本来は出てきた答案を一通り見ながら採点者通しが規準合わせのようなミーティングを行い、合意した規準に基づいて採点するなどの丁寧な対応が求められるところです。
特に語彙や文法だけでなく論理展開や話のまとまりといった主観に左右されやすい部分はそのような傾向が強いと思われます。
また、そもそも論として、採点者の確保など、採点規準以前の難易度の高さもあって、これをなんとかしようという発想自体に無理があるとしています。
これまでの共通テストの方向性をほぼ全否定するような内容ですが、有識者による地に足の着いた議論になっていれば上記のような結論は出せたのではないかと思います。
民間英語試験の活用各大学の判断に委ね、共通テスト段階では扱わない
民間英語試験の問題点はこれまでも様々な観点で指摘がなされてきましたが、学術会議でも以下のような観点で問題点を指摘し、共通テスト段階での民間英語試験の活用は回避すべきとの結論を出しています。
学習指導要領との整合性
前述の通り、指導要領が4技能のバランスの良い育成を目指しているからと言って、4技能の計測をバラバラに行う必要があるという議論には必ずしもなりません。
また、民間英語試験はそもそも学習指導要領に基づいたものではなく、それぞれが異なる目的を持っています。それを大学入学共通テストに組み入れることは、高校での教育が民間英語試験対策となってしまうリスクを持っており、むしろ指導要領から遊離した指導となってしまう可能性があります。
受験機会の公平性と経済負担
経済的・地理的に民間英語試験を複数受けやすい環境にある受験生が有利であることは否定ができません。特に、受験回数を重ねた「慣れ」が得点に与える影響を考慮すると、複数回受験がしやすいほどスコアが上がる可能性が高いといえます。
また、障害等のある受験生への配慮をしていると公表しているが、スピーキングにおける対人関係に関わるメンタルへの影響が不利益を引き起こす可能性など、十分な議論がされているとは言えない状況です。
出題・採点の質および公平性の保証
公平性の観点では、民間英語試験における各回のスコアが同じ学力水準を示すことを保証する必要があるわけですが、この点については民間事業者任せになっているのが実情です。
このままでは運用を重ねるたびに問題が顕在化していく可能性が高いです。
異なる試験の点数を公平に比較する対称法の問題
文部科学省は各民間試験の点数と欧州評議会による CEFR(欧州言語共通参照枠)との対照表を公表していますが、そもそもCEFRの6段階の基準は受験者(学習者)が自分の力を判定するために緩やかに作った基準で、各教育機関が自由に修正できる前提のものであるため、入試のような競争の場で使うことは適切とは言えません。
そもそも論として、目的の違う民間英語試験を同じ指標に換算しようという発想自体に無理があり、それを対象表をもとに同一スケール上に並べることで、公平性が失われてしまう可能性が高いといえます。
これまで議論されてきたこととほぼ同じ内容ではありますが、民間英語試験はプラスαの要素であって、これそのものを合否判定に使うことは入学試験の性質上難しいという結論だと思います。
当事者の意見を反映させた議論を行う
最後に「大学入試のあり方に関する検討会議」のあり方についても提言を出しています。
高校・大学の英語教育に関わる人の意見を反映させる
2017年度の民間英語試験導入時の決定は、高校・大学の教育現場の声が反映されていなかったことが大きな問題でした。
今回の議論においては国公私立の高校・大学を代表する諸団体から構成員が選出されていますので、その方々が現場の声を正しく吸い上げて議論に反映されるように努める必要があります。
また、パブリックコメントなど広く英語教育に携わる教員や受験生の意見を聴取する機会を設けて、開かれた議論とする必要があるとしています。
センター試験の評価をもとに共通テストの英語試験継続を議論する
これまで実施されてきた「大学入試センター試験」における成果や問題点を適切に評価した上で、大学入学共通テストの英語試験のあり方を議論すべきとの見解を出しています。
特に、
全国高等学校長協会の意見に代表されるように、共通テスト英語試験の継続に対して強い要望があることに真摯に対応すべきという記述も見られ、センター試験踏襲型の試験継続を視野に入れた議論を求めています。
提言の要点を上げただけでもかなりの分量になってしまいましたが、この提言の意図するところは、
1.共通テストにおける民間試験導入はありえない。
2.センター試験を踏襲した読む・聞くを中心とした試験の継続が望ましい。
3.民間英語試験は大学個別試験での活用が望ましい。
といったあたりになると思います。
今後の「大学入試のあり方に関する検討会議」の議論の行方に影響を与えることと思います。
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