香川大学が2025年度入試で「情報Ⅰ」に配点をしないことを発表しました。
すでに発表済みの北海道大学と徳島大学に次いで3校めとなり、世間をざわつかせています。
今回は「2025年度の情報Ⅰの配点なし問題」を取り上げます。
大学側も何も考えていないわけではなく、むしろきちんと考えているからこその配点なしではないかとも思えますね。
2025年度国立大学の情報Ⅰの取り扱い
2025年度入試というのは、2023年1月現在の高校1年生が受験をするときの入試を指します。
現在の高校1年生はいわゆる「新課程」と呼ばれる改訂学習指導要領に基づいた指導を受けている最初の学年です。
この最初の世代が大学受験をするのが、2025年1月に実施される共通テストです。
この共通テストから、新課程版の問題が出題されるのですが、そこのに新科目として「情報Ⅰ」が加わってきます。
国立大学協会は情報Ⅰ必須化方針
そもそも「情報Ⅰ」は日本のIT人材の不足を背景に、IT人材を国家施策として増やしていくことがベースにあります。
国立大学協会は、令和4年1月28日に公表した「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度」の中で以下のような記述をしています。
全ての国立大学は、「一般選抜」においては第一次試験として、高等学校等における基礎的教科・科目についての学習の達成度を測るため、原則としてこれまでの「5教科7科目」に「情報」を加えた6教科8科目を課す。
「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度」より。下線は本ブログにて付しています。
原則として情報を加えて6教科8科目にすることを公表しています。
追随できない国立大学の出現
上記のことは百も承知の全国の国立大学ですが、情報Ⅰを得点化しない大学が出てきています。
1.北海道大学
2022年9月16日に2025年度入学者選抜における実施教科・科目の予告を出しています。
【入学者選抜方法】
大学入学共通テストの成績,個別学力検査等の成績及び調査書等を総合して合格者を決定します。ただし,大学入学共通テストの情報Ⅰの成績は配点しません。
なお,本学が指定した個別学力検査等の教科・科目等の全てを受験していなければ,合格者としません。
また,成績同点者の順位決定にあたっては,個別学力検査等の成績を重視します。個別学力検査等の成績も同点の場合は,大学入学共通テストの情報Ⅰの成績を活用します。
上記の通り、最後のボーダーライン上で扱う可能性をゼロとはしないものの、原則は使用しないという方針を打ち出しました。
2.徳島大学
こちらも2022年9月30日に2025年度入試の予告第1報を公表しています。
徳島大学全学部の一般選抜,学校推薦型選抜Ⅱ,総合型選抜では、大学入学共通テストの指定科目として「情報Ⅰ」を課します。
令和8年度入学者選抜(令和7年度実施)までは「総合判定の参考」とし点数化を行いませんが,令和9年度入学者選抜(令和8年度実施)より点数化を行う予定です。令和9年度入学者選抜の詳細は令和7年度中に公表します。
徳島大学は2025年度だけでなく、翌年度も点数化を行わず、総合判定の参考にとどめる旨を公表しています。
3.香川大学
香川大学は2022年12月27日に以下のような予告を発表しています。
(1)一般選抜前期日程 全ての学部・学科について、大学入学共通テストの「情報Ⅰ」を受験していることを出願要件とします。また、出願書類(調査書)とともに、総合的に判定するための資料として利用します。
(2)一般選抜後期日程 一般選抜後期日程を実施する学部のうち、教育学部、法学部、経済学部、創造工学部は、大学入学共通テストの「情報Ⅰ」を受験していることを出願要件とします。また、出願書類(調査書)とともに、総合的に判定するための資料として利用します。
(3)学校推薦型選抜Ⅱ ① 学校推薦型選抜Ⅱを実施する学部・学科のうち、法学部、医学部医学科、創造工学部は、大学入学共通テストの「情報Ⅰ」を受験していることを出願要件とします。また、出願書類(調査書)とともに、総合的に判定するための資料として利用します。 ② 経済学部(学校推薦型選抜ⅡB)は、大学入学共通テストの「情報Ⅰ」を、数学②(「数学Ⅱ、数学B、数学C」)との選択科目として利用します。
こちらも「情報Ⅰ」は総合的に判定する資料としてのみ利用することを公表しています。
なぜ、情報Ⅰを得点化しないのでしょうか?
情報Ⅰを得点化できない理由
今回話題になっている3大学はそれぞれ固有の理由から得点化しない方針を出していると思われますが、背景に共通して言えることがいくつかあると思います。
ただし、この背景はこの3大学にのみ当てはまる話ではなく、多くの他の大学にも当てはまるところですので、受験者や塾・学校の指導者の側はよく考えておく必要があると思います。
浪人生を含めた公平性の問題
「情報Ⅰ」がこれまでの科目と性格を異にするのは、全くの新設科目であるということです。これまでの新課程への移行は、元となる科目がありそれをカリキュラム調整という形で対応すること乗り切ってきました。
今回の「情報Ⅰ」は元となる科目がなく、新たに新設される科目であるため、浪人生が対応できないという問題があります。
さんざん悩んだ挙句、大学入試センターは旧課程の「社会と情報」「情報の科学」に準拠した問題を選択問題を含めて作成するという苦肉の策になっており、受験者が少なかったとしても得点調整を実施する旨を公表しています。
「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト に関する検討状況について」
端的に言うと、浪人生の扱いについては大学入試センター側も自信がない様子で、これでやると一旦強弁して、後は出てきた結果で得点調整をしようという対応になっています。
制度上、比べられないものを比べようとしているので無理はないのですが、これ自体が昨今叫ばれている入試の公平性を損なうのではないかという議論は今後活発になってくるでしょう。
「情報Ⅰ」の教員充足問題
もう1つの問題は、そもそも「情報Ⅰ」をきちんと教えられる体制が高校側にあるのかという問題です。
文部科学省が2022年11月8日に発表した「高等学校情報科担当教員の配置状況及び指導体制の充実に向けて」という資料を見るとこのあたりの問題が鮮明に把握できます。
項目 | 人数 |
---|---|
情報科担当教員 | 4,756人 |
内、情報免許状保有者 | 3,960人 |
内、臨時免許状保有者 | 236人 |
内、免許外教科担任 | 560人 |
上記の通り、全国の4,756人いる情報科の担当教員のうち、796人(16.7%)が情報化の教員免許を持っていない状態で指導がされています。
免許外教科担任だけを取り出しても560人(11.8%)に及んでおり、全国の情報科教員の10人に1人は免許外教科担任という状況となっています。
さらに都道府県・政令指定都市別にみると以下のような状況となっています。
自治体 | 臨時免許 | 免許外 教科担任 |
---|---|---|
長野県 | 0 | 76 |
栃木県 | 45 | 23 |
福島県 | 0 | 45 |
茨城県 | 30 | 10 |
北海道 | 0 | 39 |
広島市 | 15 | 21 |
鹿児島県 | 35 | 0 |
岐阜県 | 0 | 33 |
長崎県 | 10 | 21 |
岩手県 | 9 | 21 |
高知県 | 1 | 25 |
青森県 | 4 | 16 |
徳島県 | 5 | 15 |
神奈川県 | 0 | 19 |
富山県 | 0 | 18 |
山梨県 | 2 | 16 |
石川県 | 2 | 15 |
和歌山県 | 3 | 14 |
福岡県 | 8 | 9 |
新潟県 | 5 | 9 |
宮崎県 | 8 | 6 |
福井県 | 14 | 0 |
千葉県 | 0 | 13 |
宮城県 | 2 | 9 |
熊本県 | 0 | 10 |
群馬県 | 0 | 10 |
山形県 | 0 | 10 |
香川県 | 3 | 7 |
秋田県 | 6 | 4 |
奈良県 | 7 | 2 |
静岡県 | 4 | 4 |
鳥取県 | 4 | 4 |
三重県 | 1 | 5 |
岡山県 | 4 | 2 |
愛知県 | 0 | 5 |
愛媛県 | 0 | 5 |
滋賀県 | 0 | 5 |
島根県 | 0 | 5 |
沖縄県 | 1 | 3 |
新潟市 | 1 | 2 |
大分県 | 1 | 1 |
広島市 | 2 | 0 |
佐賀県 | 0 | 1 |
山口県 | 0 | 1 |
大阪府 | 0 | 1 |
京都府 | 1 | 0 |
札幌市 | 1 | 0 |
京都市 | 1 | 0 |
福岡市 | 1 | 0 |
その他 | 0 | 0 |
合計 | 236 | 560 |
グラフ化すると以下の通りです。
長野や福島、北海道といったあたりは免許外教科担任がまだまだ多いことがわかります。
高知や徳島といったあたりも上位に入っていることがわかりますね。
北海道や四国の各県など、本州と切り離されている地域では、地元の国立大学の志願率が高くなる傾向があるため、高校での指導体制が十分でないことを知っておきながら「情報Ⅰ」の配点を重くすることは、場合によっては地元の受験生を不利にすることにつながりかねないという懸念があったことは間違いないと思います。
これは、大学側の問題というよりも高校側の教員確保をいつ完了させるつもりなのかという問題の方が大きなテーマだということにになります。
ちなみに、前出の文部科学省の資料では、令和5年度には796名いた臨時免許・面鏡外教科担任が80名にまで減るという見通しが立っており、これが本当に実現されるならば、2026年度以降の入試において浪人生がほぼいなくなるという前提で情報の必須化が進むものと考えられます。
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