政府・与党が現在議論されていた9月入学について21年度の導入は断念するという報道が出ています。以下に記事のリンクを張っておきます。
事務処理などの問題を考えればかなり難易度の高い議論であったことは間違いありません。
今回は「9月入学断念とその後の対応」について考えたいと思います。
9月入学導入が難しいだろうことはこのブログでは4月30日の記事で言及しています。ある意味予想通りの展開になっているのです。
9月入学見送りの背景
3月から5月まで3か月にわたった休校措置ですが、これによる学習の遅れが来年度入試へ大きな影を落としています。
元来、9月入学は入試の時期を例年の1~3月から5~6月くらいまで遅らせることで、休校措置期間の学習の遅れを十分に取り戻してから入試に向かうという、受験生救済策として議論がスタートしました。
一方で、もともと教育の国際化など、コロナとは関係のない理由から9月入学を推進したかった人たちは、この機会を逃したくないと、9月入学を積極的に推進しました。
結果、目的のはっきりしない議論が続くことになり、ピントのぼけた議論は、事務方の対応が難しいという理由で先送りになりました。理由はほかにもいろいろありますが、制度変更に伴う各方面との調整が難しいというのが主たる背景だと思います。
慎重派の主たる理由
9月入学慎重派の主たる理由は以下の通りです。
日本保育協会…現場負担・保育士不足の懸念
全国高等学校長協会…教員の人事異動、学習課程再編が難しい
全国市長会…賛成が18%に対し、慎重・反対が約8割
全国町村会…慎重・反対が約8割
現場に近いほど慎重論が多いことがわかります。これは、学校再開自体が全面再開ではない分散登校やオンライン授業併用などで混乱気味であることがベースにあって、それにかぶせる形で9月入学の準備がスタートすると現場が悲鳴を上げるというような背景です。
つまり、9月入学論はもっと現場に余力のある時にやらないと難しいということです。
一方で、現場に余力のある時の方が変化に対する抵抗も強いので、大きな変革をするには今がチャンスという意見もあります。
考え方としては一理あるのですが、現実問題として対応する現場の教師が動かなければ理念倒れしてしまうので、9月入学見送りはある意味妥当な判断だと思います。
9月入学断念で入試対応を棚上げにしてはいけない
一方で、9月入学断念(先送り)とは別に、この議論の発端だった受験生の救済というテーマを放置してはいけないと思います。
9月入学推進派の中には受験生救済とは無縁の人も多かったでしょうから、その人たちにとってはこの話題は一度終わった話になってしまうのかもしれません。
教育に携わっている人間からすれば、受験生対応を放置しておくことは絶対に許されないと思います。
私は今後の受験生救済策は以下のようになるだろうと予測しています。
4月入学を前提とした入試日程の後ろ倒しの検討
現在、大学入試の「総合型選抜(旧AO入試)」と「学校推薦型選抜」は日程の延期を検討するようにという通知が文部科学省から出ています。
この通知の通りの対応をすると、共通テストを予定通りにやるべきかという日程の玉突き議論が必ず出てくるはずです。
一方で、4月入学を確定事項とするならば、国立2次試験なども含めて3月中旬には終わらせないといけないということになります。スタートが遅れ、期限は決まっているとなるとその間を圧縮するしかありません。以下のような展開になることが予想されます。
推薦型選抜(旧AO) | 9月の出願を11月などに後ろ倒し 11月~12月末までで実施 |
学校推薦型選抜(旧推薦) | 11月出願開始を12月などに後ろ倒し 12月~1月の2か月程度で実施 |
大学入学共通テスト | 1月中旬実施予定を後ろ倒し? 私大と国立2次が対応可能なら2週間程度は動かせるか 1月末~2月初旬対応 |
私大入試 | 2月の上旬から中旬に多く行われる 2月中旬から2月下旬に実施 |
国立2次試験 | 2月25日ごろに実施 3月10日ごろに実施し3月25日ごろ発表 後期は全廃 |
ここまでが限界だと思います。
ちなみに高校入試の場合も上記とほぼ同じで、公立高校入試を一律に3月10日前後に実施をして、私立の入試も従来より2週間程度ずらして、2月中旬から下旬で実施するようなイメージになると思います。
4月入学確定の前提で行けば、入試日程の後ろ倒しは一般入試においてせいぜい2週間が限界ということになります。
それでも少しでも後ろ倒しにした方が、受験生にメリットがあるなら、大人がきちんと受験生に誠意を見せる対応をとる(日程調整をやり切る)べきだと思います。
試験範囲の調整検討
日程による調整とは別に試験範囲による調整という観点もあります。
これは「決めの問題」ではあるのですが、これにより受験生の有利不利が出てくるため、入試を厳密にやりたい人ほど試験範囲に手を付けることに批判的になるはずです。
試験範囲を狭めると何が問題か
入試というのは「到達度」を測る試験です。オリンピックの予選や決勝と同じです。たとえば、100m競走に出る選手はゴールまでの距離が100mだとわかっているから、それ用のトレーニングメニューが作れるわけです。
入試もそれと同じで、〇〇大学の入試科目はこれですとわかっているからそれに合わせて限られた時間をやりくりして調整をするわけです。
それを入試直前期になって、「国語の古文は出題範囲から外します」などと言われたら、「これまで古文のために費やしてきた時間を返せ」となってしまいます。逆に最初から古文を棄てていた受験生はラッキーとなってしまい、後世に汚点を残すような不公平な入試になってしまうのです。
試験範囲を変更することは絶対に無理か
一方で考えないといけないのは、不公平であるという理由だけで今の試験範囲を強行突破してよいものかということです。
3カ月の休校があり、その間の学校の対応はすでにまちまちで差を生んでいるわけですから、ここは早急に検討をして情報開示をすべきだと思います。
試験範囲の変更自体は今の情勢でやむを得ないところもあるだろうというの自分の意見です。ただし、変更による影響は甚大なので、何を範囲から外すかは6月中にも公表をしておく必要があります。1日でも早い方がよいです。
関連記事へのリンクを張っておきます。推薦入試の日程延期について4/19に投稿した記事です。
大学入試は9月入学組の定員を増やす方法もある?
以下は自分の個人的な考えで、関係者からすれ暴論に見えるかもしれません。様々な可能性を議論するという意味では以下の提言もしておきたいと思います。
大学入試については9月入学という逃げ道があります。
例年4月にその大半をとっている募集定員を一部9月に振り向けて、4月の入試で不本意だった生徒にもう一度入試にチャンスを設定するというのはどうでしょうか?
学校の年度全体を変えるのではなく、一部の入学生のみ9月入学にして、単位は3年半でとってもらう、それが難しければ卒業を半年または1年遅らせてもらうというような動きです。
これをとることで、受験生の選択の幅は少し広げることが可能です。
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